糖尿病の薬について
「糖尿病」とひとくちに言うことが多いですが、1型糖尿病と2型糖尿病とでは原因も違えば治療方法も違います。ここでは、それぞれの糖尿病の違いと治療薬を見ていきましょう。
とくに治療薬にはどのような種類があって、どうやって効いていくのかを詳しくご紹介します。
1型糖尿病とは
糖尿病が生活習慣病の1つであることは、ご存知の方も多いでしょう。生活習慣病とは名前の通り、食事や運動習慣、喫煙や飲酒など日頃の生活習慣が原因となって起こる疾患のことです。
糖尿病の他に高血圧や脂質異常症、心疾患なども含まれます。糖尿病は生活習慣病としてひとくくりにされることが多いのですが、実は1型なのか2型なのかで話は大きく変わるものです。
1型糖尿病と2型糖尿病の違い
1型糖尿病は、生活習慣病とは関係がありません。というのも1型糖尿病は、自己免疫や遺伝などが主に関係して起こるものだからです。
インスリンを作り出す膵臓の働きが生まれつき悪いため、インスリンがほとんど分泌されずに血糖値が下がりにくくなってしまいます。10~13歳と比較的若いときに発症すること、痩せ型や普通体型の方が多いことが特徴です。
2型糖尿病とは
2型糖尿病は1型糖尿病とは違い、生活習慣が大きく関係しています。糖尿病の患者さんのうち、約95%はこちらの2型糖尿病です。
生活習慣病の1つではありますが遺伝も関係していることがわかっています。中高年で発症することが多く、患者さんの中には肥満の方も見られることが特徴です。
1型糖尿病と2型糖尿病とでは使う薬も違う
1型糖尿病の患者さんは、インスリンを作る工場である膵臓が充分に機能していない状態です。どんなに膵臓を刺激してもインスリンが分泌されにくいため、体の外からインスリンを補ってあげなければいけません。そのため1型糖尿病の患者さんでは、インスリンでの治療がメインです。
一方で2型糖尿病の患者さんは、インスリンの分泌量が少なかったり、分泌されていてもインスリンが働きにくかったりします。そのためインスリン分泌を促したり、効きやすくしたりするなど、さまざまなお薬を患者さんの状態に合わせて使うことが特徴です。
インスリン(注射薬)
糖尿病の薬について種類別に解説
糖尿病の薬には、さまざまな種類があります。ここでは代表的な7つのお薬をご紹介しましょう。
インスリンは、膵臓のβ細胞と呼ばれるところで作られています。食事を取ると血糖値が上がり、上がった血糖値を察知してインスリンが分泌される仕組みです。インスリンは血液中の糖分を細胞に取り込ませ、エネルギー源として使えるようにする働きがあります。そのためインスリンが分泌されると、血液中の糖分が低下していくのです。
1型糖尿病の患者さんでは、インスリンを分泌する工場がうまく働いていないため、食事を摂ってもインスリンがほとんど分泌されません。そのためインスリンを外から補ってあげる治療が基本です。後から紹介するインスリン抵抗性改善薬やインスリン分泌促進薬などは使われません。
また2型糖尿病の患者さんでも、運動や食事、飲み薬で血糖値をうまくコントロールできない場合は、インスリンの投与が行われます。
インスリン注射薬は昔から使われているお薬で、現在は特徴によって5つの種類にわけられています。
・超速効型
・速効型
・中間型
・持効型
・混合型
さまざま血糖値の上昇に対応できるように、インスリンの速効性や持続性の異なるものを使い分けて血糖値をコントロールしていきます。
ちなみに、当院で使っているのは、超速効型(ヒューマログ注ミリオペン)、持効型(トレシーバ注フレックスタッチ、インスリングラルギンBS注ミリオペン)、混合型(ヒューマリン3/7注ミリオペン、ノボラピッド30ミックス注フレックスペン、ノボリン30R注フレックスペン)などです。
当院では看護師によるインスリン自己注射指導を行っております。
スタッフ一同サポートさせて頂きますのでご安心下さい。
インスリンの分泌を促進する飲み薬(インスリン分泌促進薬)
インスリンが出ないなら膵臓のβ細胞を刺激して分泌を促せばいい、という考えのお薬がこのインスリン分泌促進薬です。
インスリン分泌促進薬のうち、SU薬(グリメピリド、グリクラジド、グリベンクラミドなど)という種類のものは特に低血糖が起こりやすいので、特に注意が必要です。また血糖値が下がることで空腹感が増し、体重が増えてしまう可能性もあるため運動も引き続き行うことが重要です。
インクレチンという生理的なホルモンを利用した薬(インクレチン関連薬)
比較的新しいお薬ですが、インクレチンというインスリンを分泌してくれるホルモンを利用したお薬もあります。ジャヌビアなどの、インクレチン関連薬です。
インクレチンとは、普段私たちが食べ物を食べた時に出てくる消化管ホルモンの総称です。
こちらのお薬は、血糖値が上がった時にだけインスリンの分泌を促進してくれるので、単独では低血糖を起こしにくいという特徴があります。
また、体重増加も起こりにくいお薬です。
インスリンの抵抗性を改善してくれる薬(インスリン抵抗性改善薬)
インスリンは分泌されているのに、血糖値が思うように下がらない状態を「インスリン抵抗性」といいます。つまりインスリンが効きづらくなっている状態のことです。肥満や遺伝、運動不足などによって分泌されたインスリンが効きづらくなることがわかっています。
インスリン抵抗性改善薬とは、このインスリンが効きづらい状態を改善するお薬です。インスリン抵抗性を改善させるアディポネクチンという物質を増やすことで、効果を発揮します。
糖の生成を抑える薬
当院でもよく使うメトグルコは、肝臓で糖が作られるのを抑えてくれます。
また、筋肉で糖が利用されるのを促進する働きもあります。
このお薬を飲んでいる時に脱水状態になると、乳酸アシドーシスという副作用が起こりやすくなります。特にお酒をよく飲んだ時やなど、こまめな水分補給が必要です。
糖の吸収を遅らせる薬
食事から摂った糖は、細かく分解されることで体に吸収されます。この分解を抑えることで血糖値の上昇を防ぐお薬が、ボグリボースやアカルボースなどです。
急激に血糖値が上がるのを抑え、糖の吸収を緩やかにします。飲むのが早すぎると食事を摂る前に血糖値が下がり低血糖を起こす可能性があるため、食事の直前(いただきますを言う前)に飲まなければいけません。
また糖の吸収を遅らせるお薬は、お腹にガスがたまって膨れる腹部膨満感が出やすいため、初めて使う場合は少量から飲むことが基本です。
糖の排泄を促進する薬
比較的新しいお薬に、糖の排泄を促進するお薬があります。尿と一緒に糖を排泄するよう促すことで血糖値を低下させるお薬で、ジャディアンスなどがそうです。
他のお薬と比べると低血糖や体重増加の副作用が起こりにくくなっています。
糖尿病治療薬は「低血糖」に注意
糖尿病の治療薬の中には、副作用として低血糖を起こしやすいものが多くあります。血糖値を下げるためにお薬を飲むことで、かえって血糖値が下がりすぎてしまうことがあるのです。以下のような症状が出たら、低血糖を疑いましょう。
・汗をたくさんかく
・手指が震える
・顔色が悪くなる
・動悸や頻脈が起こる
・頭痛がする
・生あくびが増える
・眠くなる
低血糖の状態が進むと、昏睡(こんすい)状態に陥ることもあるので早めの対処が大切です。
低血糖が起こる理由としては主に4つの原因が考えられます。
・お薬の量が合っていない
・使うタイミングや飲むタイミングを間違っている
・食事を減らしすぎている
・激しい運動をする
お薬の使い方を間違って低血糖を起こす方は少なくありません。種類によって食後だったり食前だったり、食事の直前だったりとしますので、必ず使い方は確認してかなければいけません。
当院では糖尿病専門医の院長が処方を行いますので、お薬を使っていて上記のようなことがあればすぐにご相談下さい。
薬の調節はHbA1cの値を見て行う
色々とお薬を紹介してきましたが、糖尿病の治療をしていく上で、絶対に見ておかなければいけないのがHbA1cです。HbA1cとは、ヘモグロビンにグルコースが結合したもののことで、高血糖の状態が長く続くとこの結合が強くなります。
血糖値はその日のうちでも大きく変動しますが、HbA1cは何か月間かは変動しません。そのため、ここ数か月間(過去1~2ヶ月前)の血糖値の平均値を知りたいときにHbA1cを確認するのです。
HbA1cが値が高いほど血糖値の高い状態が続いていることを意味し、6.5%以上になると糖尿病の可能性が高くなります。
HbA1cの数値は血糖値の平均値を知るためにも重要ですが、お薬の選択や量の調節にも必要不可欠なものです。
糖尿病治療の基本は薬ではなく「食事」と「運動」
生活習慣と大きく関係している2型糖尿病は、必要に応じて薬で血糖値をコントロールしていくことになります。しかし、薬を忘れずに毎日飲むことも重要ですが、食事や運動のほうがもっと大切です。
薬より大切だと言われると大げさに聞こえるかもしれませんが、決して誇張しているわけではありません。薬を使った治療は、運動療法と食事療法が効かないときの最終手段です。
たしかに薬を飲めば一時的に血糖値は下がります。しかし、血糖値が下がることで感じる空腹感に負けて、自然と食事量が増えてしまう方も少なくありません。これでは本末転倒です。
そのため血糖値をむりやりお薬で下げるのではなく、血糖値が上がりにくい体を作ることが重要となります。そのためには食事と運動が大切なのです。
運動をすることで、体内でインスリンが働きやすい状態になります。運動は筋肉量を維持する効果もあるので、将来の寝たきり対策にも有効です。食事療法は年齢や性別、肥満の度合いから1日に必要なエネルギーを計算して食事を摂ります。
当院では、管理栄養士による食事指導を行なっておりますので、是非お気軽にご相談下さい。